2021.09.02

特集:ベトナムのテレワーク実態調査アンケート【後編】

テレワークの課題と今後のオフィスのあり方

 

当社は8月中旬に、主にホーチミンとハノイの日系企業175社を対象に、テレワークの実態調査を行わせていただきました。(アンケート回答企業175社、日本人187名、ベトナム人185名の回答協力)このデータを元に、前後編に分けて集計の結果を皆様にご報告いたします。

【前編】は、8/26 VIETJO掲載記事をさらに加筆し、

『テレワーク制度定着せず? オフィス再開後の日系企業の動向予測』を配信いたしました。

今回の【後編】では『テレワークの課題と今後のオフィスのあり方』について配信いたします。

 

ロックダウンとオフィス賃料交渉

長引くロックダウンでオフィス稼働率が低下している現在、各社はオフィスのコストについてどのようなアクションを

とっているのだろうか。

質問<E-2.ロックダウンの影響を受け、オフィス賃料を期間限定で減額できた例があれば、具体的に教えてください>と

いう問いに対し、オフィスの賃料を減額できという回答は34社だった。家賃減額の内訳は「減額の%言及なし21

社」、「10%減6社」、「5%減2社」、「18%減1社」、「20%減1社」、「24%減1社」、「50%減2社」)だっ

た。14社は、家賃の減額交渉は達成できなかったものの、駐輪場や電気代などのサービス料の減額交渉を行なってお

り、家賃とサービス料の両方の減額が交渉できた会社は4社に過ぎなかった。今後ホーチミンエリアではロックダウン

長引く場合、「家賃の減額10%」+「サービス料の部分的減額」の交渉が達成できれば、交渉ラインとしては上出

来と考えてよいだろう。

 

 

日本サイドはあまり関与せず?

今回のロックダウンにおいて日本本社サイドからのオフィス運用の指示などについては、「特になし」が48%だった。

続いて「オフィス賃料の減額交渉13%」、「休暇の取得促進13%」、「テレワークの社内業務改善10%」と続いた。

概ね、明確な指示が出ているケースは少数派のようで、多くは現地サイドでの対応判断に委ねられている様子がうかが

える。

 

 

 

テレワークに求められるインフラ

オフィスが使えない会社が増えれば、当然ながらテレワーク社員が増えることを意味する。自宅仕事に関する質問<A-

3. テレワーク環境について教えてください。>に対しては、日本人・ベトナム人とも約4割前後が「特に問題なく、テ

レワークがしにくいとは思わない」という感想となった。一方、日本人の21.6%が「テレワークを行う専用の椅子やデ

スクはなく、テレワークに向いていないと思う」という不満があった。逆にベトナム人の21.6%は「テレワークを行う

専用の椅子やデスクを所有している」という回答に。日本人はサービスアパートなど短期契約住まいが多いため、椅子

やテーブルまで自前で揃える考え方に至りにくいこともあるだろう。今後は賃貸物件でテレワーク用の椅子やワークデ

スクを備えている賃貸物件の人気が高まるかもしれない。

 

 

テレワーク中に環境改善したものは?

実際に何か自宅で改善したものがあるか?についての質問<A-4. テレワーク中に、仕事環境を改善したものはあります

か?>の問いに関しては、日本人の33%が機器類の環境改善(「PCやモニター23.9%」「プリンターやスキャナー

9.9%」)が最く、「ヘッドフォンやクッション」などの小物の改善が17.4%となった。一方、ベトナム人は「チェア

やデスク19.9%」の改善以外の希望がバラけたのは、同居者の多いベトナム人の住環境の住まい環境の個体差によるニ

ーズの違いと推測される。

 

 

テレワーク中に改善したいものは?

<A-5.テレワーク中に改善できるなら、何を改善したいですか?>という問いに関しては、

日本人(29.5%)とベトナム人(18.6%)共ワークチェアやワークデスクの改善の希望と回答した。ロックダウンが長引く

場合、PCやプリンターの貸与の他、希望者へのチェアの貸出検討もアイデアとしてありうることがわかる。

 

 

 

テレワークでの<B-3. あなたが希望するテレワーク中の会社からのサポートはどのようなものか>という問いに対し

て、約80%が「特になし」と回答した。続いて日本人は機器やネットワーク環境の改善が8.8%と多く、ベトナム人は

「手当て12.2%」(「減給なし」「通信費」「光熱費」「通信機器類の故障時の補助」などの意見を「手当て」として

集計)が多かった。

 

 

 

テレワークの共通課題<社内承認業務>

<C-3.テレワークで特に不便に感じる業務について教えてください>の質問に対しては、やはり圧倒的に多かったのが

「サインや押印などの書類作成プロセス」で日本人の23.6%、ベトナム人の24.8%が不便さに上げていた。

小型プリンターの会社貸与や社印の扱いなど、柔軟に対応ができた企業とそうでない企業に差が出たようで、日本人・

ベトナム人とも対応の遅れには不満を漏らしていた。

社内の承認関連業務はテレワークで避けて通れない改善事項であるため、従来の管理基準で柔軟な対応ができなかった

企業は、今後の緊急事態も想定した管理基準の見直しは必要だろう

 

 

オフィス再開後のオフィス改善、その意識差が浮き彫りに

質問<D-1.オフィスワークが再開する際に感じる気持ち>については、日本人の42.5%、ベトナム人の26.8%が「普通

に外出できることが楽しみ」、日本人・ベトナム人共約25%が「職場で仲間と働ける喜び」を期待する声が最も多かっ

た。その一方、ベトナム人は「外出による感染リスクへの恐れ(23.2%)」や「自社オフィスの感染症対策に不安をもっ

ている(15.4%)」と回答している。

この懸念を裏付けるのが次のオフィスへの改善要望である。

 

 

オフィスの感染症対策を求めるベトナム人

この意識差は、具体的な改善要望に明確に表れている。

<ロックダウン解除後のオフィス改善>について、日本人マネジメントサイドの回答では「少人数向けWEBミーティン

グブースのリフォーム(21.4%)」が最多で、オンラインによるミーティングが今後も増えることを見越したリノベーシ

ョンを望む声が最も多い希望であった。一方、べトナム人は、前出の質問同様に、感染症への現実的な懸念が最多を占

めた。「デスク・パーティションや消毒スタンドの設置(23%)」「空気清浄機の導入(20%)」など、自分が通うオフィ

スのコロナ感染症対策のさらなる改善を希望している。また、「賃貸面積の検討(増床や減床)」は日本人が18.4%で

2番目に多い希望で、ベトナム人は15.2%で3番目に多い希望となった。

 

 

日本人とベトナム人では、オフィスの広さの感じ方が違う?

テレワークが長引く中、現在のオフィスの広さは妥当に感じるのだろうか?これに対する質問<E-4.今のオフィスの広

さは、社員のテレワーク経験後、適当な大きさだと感じますか?>には、日本人・ベトナム人共、約6割が適当な広さと

回答した。一方、「やや狭い」と回答した日本人が11.3%に対し、ベトナム人は3.3%に留まった。逆にベトナム人の

35.2%は「やや広い13.2%」「かなり広い22%」と感じている。日本人は29.1%が「やや広い22.7%」「かなり広い

6.4%」となっており、広さの感じ方が異なる回答結果となった。ベトナム人のパーソナルスペースは日本人よりやや狭

く、また、居住面積あたりの同居人数の多さなどの関係で、日本人ほどにはベトナム人はオフィスを狭く感じていない

のではないことが推測される興味深い差といえよう。

 

 

「縮小移転」という選択肢は広まるのか?

今のオフィスは今後どのように捉えられていくのだろうか。

日本人・ベトナム人のオフィスマネジメント層を対象にした質問<E-1. オフィスの賃貸面積を縮小し、中長期的に経費

を削減する考え方の可能性について>には、155社の回答(*1社からの複数回答も多く、すべて有効回答として統計)

があった。オフィス移転に関する最も多い回答が「今は具体的に考えていない」で106社。「今のオフィスで契約更新

予定」が27社。すでに「移転を検討中」が23社。「契約更新のタイミングで移転を検討」している企業が27社となっ

た。直近の契約更新では大半の企業は移転をせずに契約更新をする予定であることがわかった。

一方何かしら移転の方向性で検討している61社となっている。

今後、縮小移転の収支計算例が不動産仲介業者などによって身近な情報として広まってくれば、縮小移転の選択肢は増

えてくる可能性はあるだろう。

まとめ

日系企業の多くは、これまで通りのオフィス利用に戻る流れが大勢という結果となった。

ロックダウン後の即時の業績回復が難しい企業も多く、家賃やサービス料の交渉をまだビルオーナーとしていない場合

には、質問E-2の事例を参考に、更新を視野に入れた交渉を掛け合ってみる価値も十分あるだろう。

現在のオフィスは、よりしっかりとした感染症対策を施し、オフィスワーク再開後に安心して仕事ができる環境の提

供が今後より強く求められてくるだろう。

また、リモートワークを制度として採用する場合、長時間座るチェアの改善や光熱費の手当てなど、何かしらの補助は

考慮した方が、制度として機能しそうである。

今後は、現オフィス機能への復帰が大勢を占めつつ、リモートワークを制度として併用する少数派企業の成功例や、縮

小移転による収支改善の成功事例の動きも市場に敏感に認知され、中長期的にはオフィスのあり方へ影響を与えること

が予想される。

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