2022.08.22
ベトナムにおいてオフィス移転等によって内装工事を行う場合、内装工事に関する会計上、税務上の処理をする必要があります。
これらの処理が不適切な場合、税務調査で多額の追徴課税を課される可能性があります。
今回は、内装工事における会計・税務上の処理についてベトナムの会計税務に詳しいI-GLOCAL社にお話をうかがいました。
-ベトナムで内装工事を実施した際の会計処理
まず、ベトナムの会計基準において、内装工事に際して内装業者に支払う費用は、前払費用として計上されます。
一方で内装工事において、個別に以下の要件のすべてを満たす有形物を購入する場合には、
<工具器具備品等の有形固定資産>として計上されます。
➀ 将来において経済的便益をうけられる
② 1 年以上にわたって使用する
③ 取得原価が 3,000 万ドン以上である
上記の要件を満たさない有形物を購入した場合は、内装工事費と同様に前払費用として計上します。
また、ベトナムでは土地は国のものであるという考えがあり、日本の基準とは異なり土地が固定資産として計上されません。
そのため、土地利用権を前払費用として計上し、最大50年間で費用化していきます。
また、③における取得原価は、実際に購入した際の価格に関税等の税金と、
当該資産を使用可能な状態にするまでに支払った全ての費用を加えて算定する必要があります。
例えば、オフィスの会議室に2,500万ドンでテレビを購入、
600万ドンの工事費用を支払い壁掛け設置をしてもらったとします。
この場合、テレビ本体と取付工事費用の合計価格が3,100万ドン(③に該当)であり、
①と②の要件も満たすため、有形固定資産として認められます。
オフィス運営においては、既存の有形固定資産に対し、修繕やリノベーション、あるいは増床工事の費用が発生するケースがあります。
その場合、費用の性質によって会計処理も変わっていきます。
まず、有形固定資産の状態を当初の標準的な状態に回復又は維持するための支出である場合は、
「修繕費」として費用計上する必要があります。
一方で、当初の標準的な状態よりも品質を著しく向上させる、又は利用期間を著しく向上するための支出である場合は
「資本的支出」として支出額を有形固定資産として計上します。
有形固定資産は数年にわたって企業の活動に利用されることで価値が減少することから、
その価値の下落を会計上反映するために、有形固定資産の取得後においてその資産の取得原価を
資産の想定利用期間である耐用年数にわたって費用処理する必要があります。
この費用処理を減価償却といい、その費用を減価償却費といいます。
そのため内装工事において計上された有形固定資産についても、耐用年数にわたって減価償却をする必要があります。
つまり、支払い時にそのまま支払額が費用になるわけではないので、決算前に慌てて購入しても、
決算の数値や法人税額への影響は大きくない可能性が高い点にご留意ください。
固定資産に関するベトナム基準のCircular 45/2013/TT-BTC(以下、「通達45」)では、
以下の通り、固定資産の種類ごとに耐用年数が定められているため、この期間で資産ごとの耐用年数を決定していく必要があります。
日本では〇年と定められていますが、ベトナムは最短と最長が定められており、
企業がその範囲内で決めることができるのがベトナムの特徴となります。
税務当局の姿勢として、耐用年数をできるだけ長くすべきと考える傾向があるため、
耐用年数を短めに変更、又は設定したい場合には、客観的な資料や合理的な説明が必要になることがあります。
説明の根拠となるものとして以下のようなものが考えられます。
・ 購入元から提示される固定資産の技術的な耐用年数
・ 固定資産の現状(使用期間、使用具合、資産の実際の状況)
・ 減価償却期間の変更による当期損益への影響(耐用年数を変更する場合)
資産項目 | 耐用年数(年) | |
最短 | 最長 | |
A.発電機及び発電設備 | ||
1.発電機 | 8 | 15 |
2.発電機(水力発電、火力発電、風力発電、混合ガス発電) | 7 | 20 |
3.変電設備及び電気設備 | 7 | 15 |
4.その他の発電機及び電気設備 | 6 | 15 |
B.その他の機器及び製造設備 | ||
1.工作機械 | 7 | 15 |
2.鉱業用の機械及び設備 | 5 | 15 |
3.トラクター | 6 | 15 |
4.農業及び林用の機械 | 6 | 15 |
5.送水及び燃料ポンプ | 6 | 15 |
6.治金、防錆、腐食表面加工用の設備 | 7 | 15 |
7.化学品製造設備 | 6 | 15 |
8.建築資材、ストーンウェア、ガラス製品製造用の機械及び設備 | 10 | 20 |
9.部品、電子機器、光学機器、精密機器の製造用の設備 | 5 | 15 |
10.皮製品及び事務用品の印刷に供される機械及び設備 | 7 | 15 |
11.繊維製品に供される機械及び設備 | 10 | 15 |
12.服飾産業に供される機械及び設備 | 5 | 10 |
13.製紙産業に供される機械及び設備 | 5 | 15 |
14.食品生産及び食品加工用の機械及び設備 | 7 | 15 |
15.映画製作用の機械設備及び健康器具及び設備 | 6 | 15 |
16.電気通信、情報、電子機器、コンピューター及びテレビ用の機械及び設備 | 3 | 15 |
17.製薬用の機械及び設備 | 6 | 10 |
18.その他の機械及び設備 | 5 | 12 |
19.石油化学製品に供される機械及び設備 | 10 | 20 |
20.石油・ガス探査及び石油・ガス抽出に供される機械及び設備 | 7 | 10 |
21.建設機械及び設備 | 8 | 15 |
22.クレーン | 10 | 20 |
C.実験及び計測器具 | ||
1.機械、温度、音量の実験及び計測設備 | 5 | 10 |
2.光学及びスペクトル設備 | 6 | 10 |
3.電気及び電子設備 | 5 | 10 |
4.物理化学の測定・分析設備 | 6 | 10 |
5.放射線設備及び器具 | 6 | 10 |
6.特定の用途に特化された設備 | 5 | 10 |
7.その他の実験・測定設備 | 6 | 10 |
8.鋳造に供される金型 | 2 | 5 |
D.設備及び車両 | ||
1.道路用の車両 | 6 | 10 |
2.線路用の車両 | 7 | 15 |
3.水路用の船舶 | 7 | 15 |
4.空路用の航空機 | 8 | 20 |
5.パイプラインの運搬設備 | 10 | 30 |
6.商品の積み下ろし及びリフト機器 | 6 | 10 |
7.その他の設備及び車両 | 6 | 10 |
E.管理用機器 | ||
1.計算・測定機器 | 5 | 8 |
2.管理用の機械、通信設備及びソフトウェア | 3 | 8 |
3.その他の管理用機器 | 5 | 10 |
F.建物及び構築物 | ||
1.建物 | 25 | 50 |
2.簡易的な休憩施設、食堂、ロッカー室、トイレ、車庫等 | 6 | 25 |
3.その他の建物 | 6 | 25 |
4.倉庫、貯蔵タンク、橋、道路、飛行場、駐車場、乾燥場等 | 5 | 20 |
5.堤防、ダム、排水溝、運河、灌漑施設 | 6 | 30 |
6.湾、造船施設の船台 | 10 | 40 |
7.その他の構築物 | 5 | 10 |
G.家畜及び植物 | ||
1.家畜 | 4 | 15 |
2.産業用の植物等 | 6 | 40 |
3.芝生、グリーンカーペット | 2 | 8 |
H.その他の固定資産、上記にて規定されるものを除く | 4 | 25 |
I.その他の固定資産 | 2 | 20 |
-減価償却方法の設定
有形固定資産の減価償却方法として、定額法、定率法及び生産高比例法の3種類が規定されております。
企業は、資産ごとに選択した減価償却方法を資産の償却が開始するまでに管轄税務局に届け出る必要があります。
実務上は殆ど定額法(耐用年数にわたって均等に減価償却を実施する方法)が用いられますが、
以下の要件を満たした場合は原則として会社設立(企業登録許可証発行)から10日以内に管轄税務局に届け出ることで
定率法、生産高比例法を用いることができます。
■定率法
・新品の固定資産である
・資産が機械装置、測定機器等であること
■生産高比例法
・製品製造に直接関連すること
・総生産量が把握できること
・実際の月次の操業度が当初計画していた操業度の50%を下回っていないこと
なお、有形固定資産について、使用開始していない場合であっても
その資産が使用可能になった段階で減価償却を開始する必要があります。
内装工事の場合、通常定額法となります。
-税務上の留意点
次に税務上の留意点について説明します。
有形固定資産の取得原価の支出額について、
会計では費用として認められるものでも、法人税の計算上でも費用(損金)として認められるためには、
以下の条件を満たす必要があります。
・会社の事業活動に関係がある費用であること
・レッドインボイスや契約書、社内規定等適切な証憑を提出できること
・付加価値税(VAT)込みで 2,000 万ドン以上の支払は現金以外(銀行送金やクレジットカード払い)で決済していること
-減価償却費の損金算入に関する留意点
有形固定資産の減価償却費について、法人税の計算上、損金として認められる場合は、
税務調査などで基本的に合法なインボイスや売買契約書等関連書類を税務局に提出することが求められます。
以下、減価償却費の損金算入が認められないケースをいくつかあげます。
・公式インボイスあるいはその他の証憑がない有形固定資産に係る減価償却費
・現金払いで取得した有形固定資産に係る減価償却費
・使用を開始していない有形固定資産に係る減価償却費
・企業の生産活動や製品販売・サービス提供活動に直接関連しない有形固定資産に係る減価償却費
(従業員用の更衣室、化粧室や救急室等一部例外あり)
・通達45で規定されている減価償却方法で計算された金額を超える減価償却費。
なお、加速度的に減価償却を行う際は、当該加速度的な減価償却の額が、同通達の附録の固定資産の耐用年数にて計算された金額の2倍を超える金額は損金不算入となる。
・9人乗り以下の自動車(運送業、観光業及びホテル業で使用される自動車を除く)の減価償却費のうち16億ドンを超える金額
ベトナムの会計・税務上の規定には企業側の判断に任せている部分も多く、
特に耐用年数の設定に関しては、税務局の判断ひとつで法人税額に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため、実際に処理する際に判断に迷った場合には、
ぜひベトナムの会計・税務に詳しい会計事務所や監査法人へご相談することをお勧めします。
寄稿協力:I-GLOCAL CO., LTD.
福本直樹 I-GLOCALホーチミン事務所代表。日本国税理士、公認不正検査士。2014年にI-GLOCALハノイ事務所長としてベトナムに赴任。2020年よりI-GLOCALホーチミン事務所代表。
津川雅樹 I-GLOCAL東京事務所所属。大学4年で会計士試験に合格し、その後監査法人トーマツに入社。監査法人トーマツでは主に上場企業の財務諸表監査業務、内部統制監査業務に従事。2022年7月より株式会社I-GLOCALに入社。
【参考記事】
smbc_globalInformation_202007_1.pdf (i-glocal.com)
smbc_globalInformation_202007_2.pdf (i-glocal.com)
通達Circular 45/2013/TT-BTC , 通達Circular 200/2014/TT-BTC , 通達Circular 78/2014/TT-BTC , 通達Circular 96/2015/TT-BTC
今回の特集では、ベトナムにおける内装工事に当たっての会計上、税務上の処理について専門家にお話を伺いました。
お読みいただきありがとうございました。