2026.02.27

日本とベトナムのビジネスにおける人間関係の現れ方

日本とベトナムのビジネスでは、いずれも人間関係は重要な要素の一つです。これは、特別に新しい話題ではありません。ただ、日々の実務や意思決定の場面を見ていくと、同じ「人間関係」という言葉でも、日本とベトナムでは、少し違った形で現れているように感じることがあります。本記事では、この点について、実務の中で感じたことを、少しお話ししてみたいと思います。

 

ベトナム社会における人間関係の位置づけ

ベトナムでは、家族や親族、知人とのつながりが生活のさまざまな場面に自然と深く関わっており、その感覚は仕事の場にも延長されています。たとえば、住居を探すときや転職を考えるとき、あるいはトラブルが起きたときでも、まずは身近な人に相談するという行動がごく一般的です。こうした社会構造の中では、「制度や契約があるから安心」というよりも、「知っている人が関わっているから安心」という感覚が判断の土台になりやすくなります。

実際のビジネスでも、条件が似ている取引先が複数ある場合、「知人から紹介された会社」「何度か会って話をした担当者がいる会社」が選ばれることは珍しくありません。これは感情的な選択というよりも、「何かあったときに直接話せる相手かどうか」という実務的な安心感を求めた結果と言えます。このように、人を通して信頼を確認する傾向は、特定の価値観の優劣ではなく、社会の成り立ちや日常の行動様式から自然に生まれているものと考えられます。

 

日本のビジネスにおける人間関係の捉え方

一方で、日本のビジネスにおいても人間関係が重要であることは広く知られています。ただし、その位置づけや現れ方には特徴があり、多くの場合、人間関係は制度や組織の仕組みの中に組み込まれているケースが多く見られます。たとえば、長年の取引実績や社内の承認フロー、契約書や仕様書といった制度的な枠組みがまず存在し、その上で担当者同士の信頼関係が築かれていきます。

実務の場面では、「担当者と気が合うから」という理由だけで取引先が決まることは少なく、価格や品質、納期、実績といった条件が整っているかどうかも重要視されます。

たとえば、初めて取引する会社であっても、見積内容が妥当で、社内審査を通過し、契約条件が整理されていれば、特別な関係がなくても発注に進むことができます。また、担当者が異動した場合でも、契約や取引条件が明確であれば、取引そのものは継続されるケースが一般的です。これは、個人の関係性よりも、組織としての仕組みやプロセスの再現性が信頼の基盤となっているためです。

もちろん、長年の取引の中で担当者同士の信頼関係が深まり、それが新たな案件につながることもありますが、それは制度や契約の枠組みの中で徐々に育まれていくものです。つまり、日本では人間関係が軽視されているわけではなく、むしろ制度やプロセスの中に組み込まれる形で機能しており、表面には出にくい構造になっていると言えるでしょう。

 

両国の違いは「重視するか」ではなく「表に出るタイミング」

こうして両国の実務の流れを見ていくと、日本とベトナムの違いは「人間関係を重視するかどうか」ではなく、「それがどの段階で表に出てくるか」にあるように感じられます。

日本では、契約や制度、社内プロセスといった仕組みがまず信頼の基盤として存在し、その枠組みの中で人間関係が徐々に形成されていきます。言い換えれば、人間関係は取引の前に個別に確認するものというよりも、組織の仕組みの中に前提として組み込まれ、日々の運用フェーズの中で育まれていくものと言えます。そのため、取引開始の段階では、条件や実績が整っていれば比較的スムーズに話が進むことが多く、人間関係の有無が表立って議論される場面はそれほど多くありません。むしろ、実務を通じて徐々に信頼が積み上がっていく形が一般的です。

一方、ベトナムでは、取引の開始段階から「この人と一緒に仕事ができるかどうか」という感覚が判断材料として表に現れやすくなります。たとえば、提案内容や価格が妥当であっても、まずは数回の面談を重ねたり、食事の場を設けたりして、相手の考え方や仕事への姿勢を確かめる時間が取られることがあります。そこで「この人なら相談しやすい」「問題が起きても話し合いで解決できそうだ」と感じられれば、条件面で多少の差があっても取引が進むこともあります。

このように、日本では人間関係が運用フェーズの中で深まっていくのに対し、ベトナムでは開始フェーズで確認される傾向があるため、同じ「人間関係重視」という言葉でも、実務上の見え方が異なって感じられるのかもしれません。

 

まとめ

日本とベトナムは、どちらのビジネスにおいても人間関係を大切にしている点では共通しています。ただし、その重みの置き方や、実務の中で表に出てくるタイミングには違いがあるように感じられます。こうした前提をあらかじめ理解しておくことで、「なぜそうするのか」「なぜ伝わりにくいのか」といった疑問や、不必要な戸惑いやストレスは、少し減らせるのではないでしょう。相手のやり方を変えようとするのではなく、お互いがどこで前提を確認しているのかを共有すること。その積み重ねが、結果として実務を円滑にしていくのだと思います。

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